当事者家族インタビュー
ADHD、ASD、学習障害がある息子
「母親の育て方が悪い」と言われて(前半)

校長先生から投げつけられた「犯罪者になる」という言葉。 発達障害という言葉がまだ一般的ではなかった頃に子育てをしてきた女性の体験を、詳しくお聞きしました。
黒坂真由子 2025.06.17
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 発達障害という言葉がまだ一般的ではなかった頃に子育てをしてきた東京近郊在住の女性は、周りから育て方を責められ続けました。当初は自分でも「本当に子育てが苦手なだけかも」と思ったことがあるといいます。ADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、学習障害があるという息子さんは、現在20代。西欧の大学で学んでいます。生まれた頃から大学生となった今に至る2人の歩みを、じっくり語っていただきました。前半、後半の2回に分けてインタビューをお届けします。また小学校5年生で告知をした際の当時の記録を掲載します。

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 本記事は、個人の体験談です。発達障害においては、たとえ同じ診断であっても、症状や困難は一人一人違います。また時期や地域によって、医療や教育、サポートの体制も大きく異なります。

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まったく寝ない。まったく食べない

−− お子さんが発達障害と診断されたのは、いつ頃ですか?

 診断自体は、かなり遅かったです。ただ、生まれた直後から違和感はありました。でも周囲の否定というか、「子どもを病気扱いするな」という圧力が強かったんですね。ですから、そんな周りの意見に翻弄された時間がすごく長かったです。

−− 生まれた時の違和感とは、どのようなものですか?

 28歳で、初めての子育てで、戸惑うことは多くありました。育児本には、「赤ちゃんは寝る」と書いてあったのですが、息子はまったく寝ない子でした。夜中の2時から5時まで、生まれたときから毎日泣いていました。じゃあ、朝になると寝るのかというと、朝は元気なんですよ。ほとんど寝ない子でした。深夜に何時間も抱っこして歩き回ったり、車に乗せてドライブをしたり……。自分自身、ほとんど寝ていなくて、ふっと意識を失うように眠りに落ちることもありました。「赤ちゃんて、こんなにも寝ないものなのか」というのが、最初の違和感でしたね。

−− 次に感じた違和感は、どのようなものでしょうか?

 そうですね、まったく食べないということでしょうか。1歳の頃から、何を作っても食べてくれませんでした。栄養失調で病院に運ばれたことも、たびたびありました。息子に食事をとらせることができない自分が情けなくて、本当にどうしたらいいのかわかりませんでした。とにかく食べてくれないので、栄養バランスなど考える余裕もありませんでした。

 どうやら、食べることに関心がなさそうでした。食べ物よりも、テーブルの上の食器やフォークに注意をひかれ、それらを振り回したりしていました。関心は次々と他のものに移ってしまい、食事をするという行為には向かいませんでした。

−− そうなると、何か食べてくれればいい、という感じですね。

 はい。そんな状態がかなり長い間続きました。ある時、枝豆だけは食べてくれるようになりました。どうやら、豆を取り出す感覚を気に入っていたようです。個体によって、中にある豆の数や大きさが違うことなどに興味をひかれたようです。そのため、幼稚園のお弁当箱いっぱいに枝豆を詰めたことがありました。それを見た幼稚園の先生に、「彩りや健康を考えるように」と注意されて。でも、「他の子と同じように」食べることができないから、枝豆だけを詰めていたのです。わかってもらえることはなく、苦しかったですね。

 私自身はもう、息子が0歳の頃から「自閉症じゃないか」と思っていました。そしてADHD、もしくはアスペルガー(*1)かなと思ったのが3歳くらいの頃です。

−− なぜ自閉症だと思われたのですか?

 そもそも首のすわりがすごく遅かったからです。寝ないこと、食べないことに加えて、些細なことにすごく過敏だったり。顔や目線は合う時もあれば、合わない時もありました。言葉の話し始めは、流れているニュースをそのまま繰り返す形で、話し始めた時から、「言葉は理解していないが、言葉が出てくる」という印象がありました。読み聞かせをするじゃないですか。そうすると、それを全部暗記して、自分で本をめくりながら本を「読む」のです。字は読めていなかったのですが。

−− ADHDやアスペルガーという言葉も知っておられたのですね。

 本などで読んだのだと思います。言葉としては知っていました。「もしかしたら」と自分では思っていたので、自分の両親や夫に相談もしました。でも父親には、「子どもを障害者にするな。お前が精神病院に行け」と言われてしまいましたし、母親には「子育てが下手な子が育てているからよ」と言われて。夫は私の話には耳を貸しませんでした。「子どもなんてそんなもの、頭で考えずに母性で考えろ」と、訳のわからないことを言うだけでした。情報もありませんでしたし、現在のように発達障害を公言している人や子どももいませんでした。

 でも、周りのお子さんと比べてみると、やはりなんともいえない違和感があったんですね。ただ、私も子どもに接したことがなかったので、「私が本当に子育てが苦手なだけかも」というふうに考えたりもしました。

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