利用できる社会資源と就労支援センターの役割:目黒区を参考に 「生活支援」サービスで利用者をサポート 第2回(全2回)

 就労支援センターでの支援は幅広く、履歴書の作成支援から面接の練習、そして面接への同行まで、手厚いサポートが受けられます。目黒区の就労支援センターでは、さらにきめ細やかな生活支援で、利用者をサポートしています。目黒障害者就労支援センターの岩原あゆみ氏と白鳥千恵子氏に詳しくお話を伺いました。
黒坂真由子 2025.08.29
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●プロフィール

岩原あゆみ(いわはら あゆみ)

NPO法人 目黒障害者就労支援センター センター長。社会福祉士・国家資格キャリアコンサルタント。地域の障害者が適切な職場環境で働き続けるために、就職前支援から就職後の支援も含めたトータルサポートを担う。定期的に啓発イベントを実施。2022年より委員を務める東京都障害者就労支援協議会にて、障害者雇用推進に向けた取り組みを行っている。目黒区障害者自立支援協議会委員・一般就労部会長(2013~15年)、目黒区障害者差別解消支援地域協議会委員(2017年~)、内閣官房障害者雇用支援アドバイザー(2023年~)、社会福祉法人の評議員等を務める。

白鳥千恵子(しらとり ちえこ)

NPO法人 目黒区障害者就労支援センター 事務局長。目黒区障害福祉課長、目黒区保育課長、目黒区健康推進課長、目黒区社会福祉事業団目黒区心身障害者センターあいアイ館施設長を歴任。目黒区障害者自立支援協議会委員(2013年~)、東京都福祉サービス第3者評価委員(2019年~)を務める。

●何かあったときの相談窓口として

−− 利用者さんの年齢は、どのようになっていますか?

岩原あゆみ氏(以下、岩原):30代が一番多くて、次にくるのが20代と40代です。50代も、今は割と多くなっています。

−− 50代まで幅広く、といった感じですね。みなさん、ここをどうやって見つけてきているんですか?

岩原:ハローワークに紹介されて来る方がわりと多いです。「なんか仕事がうまくいかない」などという話をして、ハローワークの方に紹介してもらったという形です。また、最近増えているのは、企業からの紹介です。

岩原あゆみ氏

岩原あゆみ氏

−− となると、その方は就職しているけれど、こちらに通っていると。

岩原:そうです。何かあった時の相談窓口となっています。例えば生活の相談は、企業側では対処できませんから。こちらでは、お金の管理や生活習慣のアドバイスなども行っています。企業からの紹介というのは、最近増えてきた新しい動きです。

白鳥千恵子氏(以下、白鳥):それも、障害者雇用がかなり浸透してきているからです。各企業さんが障害者雇用に関わる情報を収集しているのだと思います。

−− 3年定着率とか、5年定着率とかはどのくらいになりますか?

岩原:2025年4月末時点の数字になりますが、3年定着率は72%、5年定着率は56%です。この数字は、同人物が就職、離職を繰り返した場合もカウントされるので、実際にはもっと低くなります。

−− 同じ人が、就職して辞めてというのを繰り返す傾向がある。

岩原:そうです。就職をするけど、残念ながら2、3ヶ月で辞めてしまい、転職を繰り返す人がいるのです。

−− そうなると、定着率は下がりますね。

岩原:令和6年度でいえば、新規で就職した人は50人です。そのうち8人はその年のうちに辞めています。そしてその方が戻ってきて、また就職先を探すことになります。もちろん、10年、20年と働いている方もおられます。

−− 新卒採用の離職率は一般的に3割〜4割ですから、それより低い数字です。

岩原:うまく定着できるように「生活支援」のサービスを行なっていることが、その理由の一つかもしれません。

●生活支援サービスとは?

−− 生活支援のサービスですか? 就労支援センターで、なぜ生活の支援まで行うのでしょうか。

岩原:働けば、いろいろな出来事が起こります。例えばお給料です。お金の使い方が問題になることがあります。散財してしまい生活に影響が出たり、友人との間で金銭のトラブルが起きたり。このような金銭管理についてのサポートも、生活支援のひとつです。あとご家族の悩みもあります。働きに出たために、高齢のご家族の介護に関する悩みが出てくるのです。社内の対人関係で悩む方もおられます。

 結婚や出産、引っ越しでライフステージが変わると、新たな悩み事が生まれます。このような生活の部分は、就労と切り離すことができないものです。この生活の困りごとの部分をどこまで地域の就労支援センターが担えるかというのは課題ではありますが、目黒ではかなり力を入れています。

−− 生活の支援までしてくれるというところを含めて、ハローワークとはずいぶん違う役割をもっているのですね。

岩原:そうなりますね。体重管理を一緒にしている方もいます。体重が増えすぎて体の動きが鈍くなってしまい仕事に影響が出ている方がいて、病院で栄養相談を受けようと話をしています。病院に行くように促しているのですが、1人で行けないということになれば最初だけでも付き添うことも考えています。

 あと、結婚の相談とか。

−− 結婚まで。どんな相談なんですか?

岩原:結婚するために、どのマッチングアプリを選んだらいいか、という相談がありました。そんな風に、生活支援はけっこう難易度が高いんです。さまざまな相談がきますから。

白鳥:ただ一貫しているのは、こちらがジャッジしない、決めないということです。

白鳥千恵子氏

白鳥千恵子氏

−− マッチングアプリ自体についてはアドバイスしても、「この人がよさそう」などのアドバイスはしない。

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続きは、3796文字あります。
  • ●職業評価・職業体験
  • ●発達障害の人々の就職の困りごととは
  • ●社会資源を使いこなしてほしい

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