「算数障害」のある娘。コンセプトは「学習を諦めない環境づくりの維持」(後編)

「学習を諦めない環境づくりの維持」をコンセプトに、大変な時期を乗り切った親子。女の子特有の悩みはなかったかについて、お聞きしました。東京都在住で、5年生の娘さんを育てるお母さんへのインタビューです。
黒坂真由子 2026.03.06
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●「算数障害」に気づいたきっかけは?

―― なぜ、娘さんが「算数障害(「限局性学習症(学習障害)」の一つである算数の困難。以下「算数障害」)だとわかったのでしょうか?

 昔から要領のいい子で、よくできる女の子という感じでした。お姉ちゃんがいるので、小学校入学前に、九九も自然と覚えていました。ですから、何も心配はしていませんでした。

  気づいたのは、小学校1年生の冬頃です。学校のひらがなのドリルの文字がほとんど直されて返されていたのです。文字をよく見てみると、ひらがなを書くマスからはみ出していたり、マス枠内の4つの区切りも意識できていないことがわかりました。どこに区切りのラインが通っているか把握していないため、お手本通りに字が書けなかったのです。

 算数ノートを見ると、「10+20=1020」とありました。他のノートも見てみると、漢字の間違いが多く、図形や記号のような漢字を書いていることもありました。「きゃきゅきょ」などの拗音、「っ」の促音が、正しく使えていないこともわかりました。

 そういえば、音読での読み飛ばしが多いこともあったな、と思い出しました。

−− なるほど。いろいろ思い当たることがでてきたのですね。

 そうなんです。そこで発達心理外来が併設されている小児科へ行きました。たまたまそこがかかりつけ医だったからです。そこでWISC-IV(*1)とSTRAW-R(*2)というテストを受けることができました。その小児科から専門の眼科で検査を受けるように言われ、「視機能検査」という目の検査と、視覚発達支援センターで「視知覚発達検査」(*3)を受けています。これが小学2年生の頃です。

 算数障害の研究者である熊谷恵子先生の存在を知り、筑波大学附属学校教育局の心理・発達教育相談室に相談に行き、KABC-Ⅱ(*4)を受け、算数指導を受けました。ここで担当していただいた山本ゆう先生が松本大学にうつられた縁で、松本大でWISC-Ⅴと算数障害スクリーニング検査(*5)を3年生のときに受けています。

―― 診断はどうでしたか?

 WISC-IVで、得手不得手、偏りがあることがわかりました。学習の場面において、文字や図形の見間違いがあるだろうと指摘されました。その後、区の相談窓口へ連絡し、学習障害の子どもを個別指導してくれるという放課後等デイサービス(*6)につながりました。

−− 放課後等デイサービスでは、どのような指導があったのですか?

 週に1回60分ですが、カードゲーム、ビジョントレーニング、なぞなぞ、学校の宿題のサポートをしてもらいました。先生と楽しくおしゃべりしながら学習ができたので、大人と話す経験を積む練習にもなりました。当初は、何をどのようにすればいいのかわからなかったので、区に適切な施設につないでもらえて助かりました。

 ただ、どうやら個人指導をしてくれる放課後等デイサービスは多くないようです。娘のように、算数と読み書きの両方に課題があると、特に低学年では個別指導でなければ難しいと思います。親子ともに、心のケアにもなりました。

−− そういった施設が増えないと、算数障害だとわかっても、適切なサポートを受けることはできませんよね。福祉や医療の対象とならない学習障害は、診断されてもその後の手立てがないということになりがちだと思います。

 娘は、まだまだ算数障害が一般的でないことで、大学の研究者の方々から支援を受けることができました。ただ、多くの子どもたちは単に「算数ができない子」とされているかもしれません。今の時代になって、急に算数障害の子が発生してきたわけではないはずですから。

−− 確かにそうですね。これまで、単に勉強ができないとか、怠けていると誤解されていたかもしれませんね。

 計算ができるかどうかだけではなく、根本的な数の概念を理解しているか、記号と意味が合致しているかなどを含めた、算数専用のスクリーニングテストを小学校入学時に実施してくれればいいのにと思います。読み書きのスクリーニングと算数のスクリーニング、どちらも必要だと思います。

 低学年から高学年への娘の成長を見てきて思うのは、低学年での基礎固めが非常に大事だということです。

−− 算数は特に積み上げ型の科目ですから、早めのサポートが必須かもしれません。

●告知のタイミング

−− お子さんに、いつ頃状況を伝えましたか? 

 小学校4年生の頃だったと思います。具体的に「算数障害」「読み書き障害」という言葉を使いました。ただ、「障害」という言葉に引っ張られなくていいこと、英語では「ディスカリキュリア」「ディスレクシア」といって、日本語訳のように「障害」はついていないよと伝えました。学校では大多数の子どもに向けての指導が行われているけれど、それに当てはまらない「少数派」なんだということも言った気がします。

 本人がすごく勝ち気な性格なので、内容を理解できるようになるまで待とう、と思っていました。

−− その時の様子を覚えていますか?

 なんとなくわかっていたようでした。色々な場所にテストを受けに行っていたからかもしれません。さまざまな先生のサポートを受けているので、ラッキーなんだよ、ということも伝えています。あとは、「頑張れる」ということ自体が才能だからね、ということも話しています。

 昨日、このインタビューを受けるということで、娘と話をしました。インタビューの質問を一緒に見たのですが、娘は「別に困ってない」と言っていました。「ママが勝手に困ってるだけ。大袈裟」とも言っていました。

−− そうなんですね。

 すごく困る前に対処してきたことで、もしかすると困り感がないままきているのかもしれません。ただ、同じクラスに漢字や算数が全然できなくて、最近学校を休みがちな子がいると言っていました。「私と一緒かもしれない」って。

−− 割合でいえば、ディスレクシアの子はクラスに3人ぐらいはいるはずなんですよね。でも、見つけてもらえる子はそれほど多くないので。お子さんは算数障害の状況を、どのように理解しているのでしょうか。

 困らないようにしてきてるからか、「理解」はしていないかもしれません。基礎が固まったので、つまずくことは減ってきましたが、新しい単元が始まるときには、概念の理解が難しいようです。例えば「比例」とかですね。

 分数も、真ん中の横棒が入った数字の組み合わせを、例えば「4分の3」と読まなくてはなりません。横棒は「ブンノ」と読む、というルールから教えなければなりませんでした。

−− 新しい単元に入るたびに、どこがわからないのかを確認しなければならないわけですね。

 そうなります。困ったのは、単位です。まず、「cm」をセンチ、「mm」をミリと読むことを覚えることが大変でした。また単位に対する感覚がつかめないので、一個一個暗記するしかありませんでした。「センチ」が「ミリ」より長いという感覚を持つことが難しかったようです。そうなると、「1cm=10mm」と暗記するしかありません。

−− 時間の計算はどうですか?

 時計は「1時間=60分」を理解してからも、「90分=1時間30分」のような換算は苦手でした。「2時30分の40分後は?」というような問題にも苦労していました。

−− どんな問題につまずくかの確認が必要になるのですね。

 そうなります。意外なところで混乱していることもありました。例えば、「時間」と「時刻」の意味の違いがわからずに問題を間違えたり。そういった算数で当たり前に使われている言葉の概念も含めて、何につまずいているのかを確認する作業が必要です。

●女の子特有の悩みは?

−− 女の子特有の悩みなどはありますか?

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