2年目を迎えて

「発達障害レポート」をスタートから、この5月で2年目に入ります。なぜ私が発達障害の記事を書いているのか。改めて自己紹介をしました。
黒坂真由子 2026.05.02
誰でも

 the Letterをはじめて、この5月で1年になります。読んでいただき、本当にありがとうございます。最初から登録されている方には再度となりますが、改めてご挨拶をさせていただきます。

 私は、編集者・ライターとして、発達障害や教育に関する本をつくったり、記事を書いたりしています。学習障害の中でも読み書きに困難のある「発達性ディスレクシア」をもつ息子がいます。

 発達障害に関する連載は2本。日経ビジネス電子版で「もっと教えて!『発達障害のリアル』」を、朝日新聞出版社EduAで「学習障害 我が家の場合」などを担当しています。日経の連載をまとめた書籍に『発達障害大全「脳の個性」について知りたいことすべて』(日経BP)があります。本書は自分でも驚くほど多くの方に手にとっていただきました。発達障害に対する情報を求めている人の多さを実感する日々です。

 なぜ、私がこのような記事を書き始めたかといえば、息子に発達障害の中の「学習障害」があることがわかったからです。読み書き、特に書くことが苦手なもので、発達性読み書き障害、発達性ディスレクシアなどといわれます。

●あまり話さない子ども 

 振り返れば、息子は3歳ごろまではあまり話さない子どもでした。保育園の先生は、お代わりしたいメニューを目で合図する息子に、「欲しいものを教えて」と発語を促すほどでした。とはいえ、それ以外の苦手はとくに目立たず、のんびりした子として育っていきました。

 問題が出てきたのは、小学校に入学してからです。特に漢字の宿題が出されるようになってからでした。宿題をする息子は、目の前にお手本があっても、その通りに写すことができませんでした。線が増えたり、横に書くべき線が縦になったり。形が変わってしまったり。

 それに対して私は「ちゃんと書きなさい!!」「ちゃんと見て!!」と怒ってばかりいました。私としては、目の前にあるお手本をそのまま写すことができないということが、どうしても理解できなかったからです。息子は顔を真っ赤にして、必死で書こうとしますがうまくいかず、泣いて家を飛び出したこともあります。

 今思えば、息子はきっと「見えるままに」書いていたのだと思います。自分では「ちゃんと書いている」のに、なぜ怒られ続けなければならないのか、わけがわからなかったはずです。

 1年生の担任の先生との面談で、「問題を飛ばして解いているので、何か目に問題があるのではないか。真面目な子だし、わざとやっているとは思えない」と言われました。その時に私の頭には、「おっちょこちょいだから」という言葉が浮かびました。この瞬間のことはよく覚えていて、もう一方の自分が「本当におっちょこちょいだっけ?」と言っているのも聞こえました。私は自分の中で、「息子になんらかの障害がある」ということから逃避したかったのだと思います。

 私は目の前に提示された事実から目をそむけてしまいました。

 学校でもメディアでも、「発達障害」や「学習障害」が話題になることはあまりなかった頃のことです。

●検査を受ける

 現実から逃避していた私が、真剣に向き合わなければならなくなったのは、小学校2年生の頃のことです。ドリルからドリルノートに問題を写して解く形式に変わったことが発端でした。

 筆算の問題が、横に3問、縦に3問並んでいると、1問目(1段目の左端)の上の数字と、4問目(2段目の左端)の下の数字を引っ張って書き写し、筆算の問題をつくってしまうのです。これではいくら計算をがんばっても、正解はできません。これは何かあると思わざるを得ない出来事でした。

 学校からは、眼科の受診と「視知覚発達検査」、「WISC(ウィスク)」(*1)という知能検査を受けるようすすめられました。まず子どもの障害に詳しい眼科を紹介してもらい、予約しました。その眼科で「視知覚発達検査」の手配をしてもらいました。予約はいっぱいで、検査は半年待ち。一方WISCは、すぐに近所の地域センターで受けることができました。

 眼科での一般的な検査を行う理由は、読み書きができない原因が、目の機能的な問題(弱視、遠視など)に由来するかどうかを調べるためです。これで「見えていないから読めない・書けないのか」「見えているのに読めない・書けないのか」がわかります。

 WISCは、IQ(知能指数)を測るための代表的なテストです。WISCを受ける理由は、文字の読み書きができない理由をさらに絞り込むためです。その理由が知能にあるのか、そうでないのかによって、その後の方針が変わるからです。理由が知能にあるならば、脳の発達が全体的にゆっくりであるために読み書きに影響が出る。理由が知能にないならば、脳の発達が部分的にゆっくりであるために読み書きに影響が出る、ということです。

 WISCのテストは、いくつかのカテゴリーに分かれており、「言葉を使う力」「見て理解する力」「聞いて理解する力」「情報を記憶し処理する力」等を測ることができます。能力の凸凹がわかることも、このテストの利点です。これらは、学校で授業を受けるときに必要とされる力です。例えば「見て理解する力」「情報を記憶し処理する力」が弱ければ、板書は難しくなります。脳のワーキングメモリに一時的に保存できる情報の量が少なければ、見てから書く間に、情報がこぼれ落ちてしまいます。

 「聞いて理解する力」が弱ければ、先生の指示が頭に入りません。耳の機能は問題ないのに、耳から聞いた情報がうまく脳で処理されないということです。 

 「視知覚発達検査」は、DTVP-2(*2)というものを受けました。この検査では、例えば目から入った情報と連動して手を動かせるか、空間における物の位置や方向を把握できるか、見本通りに図形を描けるか、などを調べます。

 ざっくり言うなら、目と脳と身体を一緒にうまく使えているかを見るテストだといえるかもしれません。

 さらに多くの検査を受けることが理想なのですが、当時、テストができる眼科や小児科は非常に限られているということでした。またここまでの検査で、「どうやら読み書きに障害の出る『発達性読み書き障害(発達性ディスレクシア)』である」ということがわかったため、検査は終了となりました。

 中学生になってからは、「STRAW-R 改訂版 標準読み書きスクリーニング検査」(*3)と「URAWSS(ウラウス)」(*4)という検査を受けました。

 STRAW-Rでは、ひらがな、カタカナ、漢字のそれぞれが正確に読めているかを測るだけでなく、流暢に読めているか、どのくらいのスピードで読めているか、内容を理解しているかなどがわかります。URAWSSは、小中学生における読み書きの速度を測るテストです。これらのテストも、できれば早いうちに受けておけたらいいと思います。

*1)WISC(ウィスク):ウェクスラー児童用知能検査(Wechsler Intelligence Scale for Children)。5歳から16歳11カ月までを対象とする児童用の知能検査。「WISC-V」は第5版で、最新日本版。「WISC-IV」は第4版。

*2)DTVP-2(Developmental Test of Visual Perception : 改訂版フロスティッグ視知覚発達検査)。目から入った情報と連動して手を動かせるか、空間における物の位置や方向を把握できるか、見本通りに図形を描けるかなど、視知覚における問題がわかる。

*3)STRAW-R(ストロウ・アール):改訂版 標準読み書きスクリーニング検査。ひらがな、カタカナ、漢字を表記別に評価。音読速度とその正確性、流暢性を測る。対象は小学1年生から高校3年生。高校や大学入試で試験時間の延長を希望する際の客観的資料となる。

*4)URAWSS(ウラウス):読み書きのアセスメントシステム(Universal Reading and Writing Screening System)。ひらがな・カタカナ・漢字の読み書きの正確さや速度などを評価し、読み書きの困難の有無や特徴を把握するために用いられる。

●発達性ディスレクシアと知って

 これらの検査を経て、なぜ息子が目の前の問題を書き写すことができないか、という理由の一端がわかりました。その時になってようやく、「発達障害」という言葉を知ることになったのです。そしてその中に、「読み書きに困難のある障害がある」ということを知りました。2017年のことです。

 当時非常につらかったことは、医師から「治らない」と告げられたことです。その一方で、目の前にすべきことが見えてきたことも事実です。本当にたくさんのことに対応しなければならなくなりました。

 学校への説明、先生との相談、特別支援教育への応募、宿題の量の調整、ノートの取り方の工夫……。年度が変われば、新たな担任に「発達障害とはなにか。学習障害とはなにか」をわかりやすく解説した書類をつくり、息子の苦手や必要な支援を箇条書きにして提出しました。まるで仕事のプレゼンです。

 障害がわかったことで、よいこともありました。親子関係には特に、プラスに働いたと思います。

 なぜなら宿題をめぐって、私が怒鳴ることも、息子が泣くこともなくなったからです。漢字練習は皆のように10回ではなく、大きく3回書くように変更してもらい、一緒にじっくり取り組むようになりました。また、インプットも大事とわかったために、読み聞かせは小学校を卒業するまで続けました。

 もし、学習障害について知らないままだったら、もしかすると私は今でも「ちゃんと勉強しなさい!!」と息子に怒鳴っていたかもしれません。それを思うと、時々恐ろしくなります。

●取材を始める

 編集者という仕事上、私は読み書きができないということを、当初必要以上に重く捉えてしまった側面があるかもしれません。「いったいどうやって勉強すればいいのか」「受験はできるのか」「将来働けるのか」など、次々と疑問が浮かんできてしまったのです。本当に不安な日々でした。

 そんな私にある編集者が声をかけてくれました。「知りたいことがあるなら専門家に取材し、記事にしたらどうか」と。以来私は発達障害の取材を続けています。

 発達障害というのは、医療、福祉、教育など、知らなければならないことが多岐にわたります。また、定義や表記、法律など、追いかけていなければすぐに情報は古くなってしまいます。様々な分野の専門家に取材することで、発達障害の方の生活と人生に必要な情報を集めていきたいと思っています。

 また、当事者や当事者家族の話を聞くことも、私の大切な活動のひとつです。発達障害といっても、状況は人によってさまざまです。そのような中、多くの人の経験を集めることで、見えてくるものがあると考えています。

***

 the Letterは2年目に入ります。今回、有料会員の最低金額を500円に変更しました。サポートするよ、という方はぜひ下記のボタンよりご登録お願いいたします。今後ともよろしくお願いいたします! 

無料で「黒坂真由子の発達障害レポート」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
『プルーストとイカ 読書は脳をどのように変えるのか?』メアリアン・ウル...
誰でも
『宙わたる教室』 伊与原新
読者限定
息子が自閉スペクトラム症と知って 第3回 理解してくれない祖母との関...
読者限定
息子が自閉スペクトラム症と知って 第2回 「当たり前」のプレッシャー...
読者限定
息子が自閉スペクトラム症と知って 第1回 幼稚園に入れない
読者限定
「DSM」とは何か?
誰でも
『奇跡の脳』ジル・ボルト テイラー (著) 竹内 薫 (翻訳) 新潮文...
サポートメンバー限定
「算数障害」のある娘。コンセプトは「学習を諦めない環境づくりの維持」(...