「自閉症はモンゴル語を話さない?」松本敏治先生最新レポート 第3回 モンゴル調査で見えてきたASDの言語状況
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第2回 津軽から始まった研究が海外へ
第3回 モンゴル調査で見えてきたASDの言語状況(←今回はこちら)
●プロフィール

ウランバートルにて。後ろに映るのは建物の上にそびえ立つ巨大なチンギスハンの像
松本敏治(まつもと としはる)
博士(教育学)。公認心理師、特別支援教育士スーパーバイザー、臨床発達心理士。北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学。稚内北星学園短期大学講師・助教授、室蘭工業大学助教授、弘前大学助教授をへて2016年まで弘前大学教授。弘前大学教育学部附属特別支援学校長、弘前大学教育学部附属特別支援教育センター長を歴任。現在は、教育心理支援教室・研究所「ガジュマルつがる」代表。長年、発達障害児者への教育相談・支援活動を行う。著書に『自閉症は津軽弁を話さない』『自閉症は津軽弁を話さないリターンズ』(以上、角川ソフィア文庫)、『自閉症は英語がお好き!?』(福村出版)など。
●モンゴル調査、始まる

草原で草を食むヒツジの群れ

ウランバートルの草原で、鷲を手に
−− 最新のモンゴル調査ですが、調査のきっかけについて教えてください。
モンゴル国立教育大学でJICA のシニアボランティアとして働いていた高井弘弥先生からメールが届いたのです。高井先生は教育学部に配属されていて、その中で、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもや保護者の相談にものっていました。そのASDの子どもの5人中4人が、初語から英語を使用している、というのです。モンゴル語で問いかけられても、英語でしか答えない子どももいるということでした。
−− 5人中4人は、多いですね。モンゴルは、アイスランドのように英語が当たり前に話されている国なのでしょうか?
そこが気になりますよね。これまで、ASDの人は共通語、英語、現代標準アラビア語など、メディアで優勢な言葉を使っているというお話をしてきましたが、それらの言葉は「社会的に価値が高い言語」と言うこともできます。共通語も、ある意味公的な場で使われる言葉ですよね。
−− そうですね。
アイスランドにおける英語は、高等教育機関で使われるなど、ある意味で高い地位にある言語なんです。現代標準アラビア語も、公的な場面で使われています。これらのことから、「ASDの人は、価値が高い言語を選んで使っているのではないか?」という説がそれまで残っていたのです。
−− 価値の高い言語を選択して使っているのではないか。
ところがモンゴルでは、英語は必ずしも高い地位にある言語ではないようなのです。大学教育でもモンゴル語が使われますし、英語が使えないと生きていけないという社会ではありません。「EF English Proficiency Index 2025(*1)」という各国の英語力を調べたスイス企業の調査では、モンゴルの英語力は123カ国中95位で、96位の日本より一つ上でした。私もモンゴルに行きましたが、観光業に関わる人は喋れる、という感じです。旅行者へのアドバイスとして目にしたのは、「医療関係者は必ずしも喋れると思わない方がいい」というものでした。
−− 日本と同じくらいの英語環境と考えるとよさそうですね。
英語環境的に日本と似ているということもあり、モンゴルで本格的な調査をすることにしたのです。最初に連絡をくださった高井先生を中心に、モンゴル自閉症協会の協力を得て、Google Formを使って、100名にアンケートをとることができました。対象の方の年齢は2歳から20歳までです。その中の86名がASDに属する診断を受けています。回答者は保護者です。
*1)EF English Proficiency Index 2025 https://www.ef.com/wwen/epi/
●YouTube視聴で英語を選択する割合は?
お子さんが、YouTubeを見ているか、見ているならどんな言語で見ているかなどを質問しました。まあ、ほとんどの人がYouTubeは見ているのですが、その言語は何だと思われますか?
実は英語が47%。モンゴル語の45%より多かったんです。

−− モンゴルのASDの人達のおよそ半数が、YouTubeの視聴に英語を好んでいるというわけですね。
では、モンゴルのASDのお子さんは家庭で一体何語を主に話しているのでしょうか。

調査結果は、モンゴル語36%、モンゴル語と英語の混在が32%、英語が10%でした。
−− 親御さんはどうなんでしょうね。親御さんが英語を喋れないと、会話できなくなっちゃいますよね。