第3回 残る? 「申請主義」の壁 宮﨑舞氏 ロングインタビュー

連載「語られないデジタル教科書への困惑 −− LD保護者の立場から−−」の第3回。デジタル教科書が正式な教科書となっても、LDの子どもの役に立たないのではないか。デジタル教科書が正式採用されても申請の壁は残るのではないか。そんな懸念が示されています。
黒坂真由子 2026.08.31
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 LDの情報を集約するホームページを立ち上げた一般社団法人カラフルバード代表理事の宮﨑舞さんに、デジタル教科書に関する懸念についてお聞きしました。全4回のロングインタビューの3回目です。

●プロフィール

宮﨑舞(みやざき まい)

一般社団法人カラフルバード 代表理事。方が違う子の親の会ルピナス副代表、デジタルアクセシビリティーアドバイザー、デジタル庁デジタル推進委員、UDBook音声教材の製作・提供に関する調査研究委員会委員、東京都発達障害者支援地域協議会委員、ほか。

修士課程の大学院生。東京都教育委員会発行「LIFT~一人ひとりに合わせた 学び方の選択肢 端末で広がる読み書き支援」制作協力。読み書きが苦手な子がいます。

●「デジタル教科書を認めない」規制

−− デジタルのみの教科書に関しては、「小学4年生以下は全教科NG、国語・社会・道徳は全学年NG」という規制が検討されていますが、これについてどう思われますか?

 そう決まれば、ほとんどの子どもは、そもそもデジタル教科書を使わなくなりますよね。

−− そうですね。デジタル教科書の採用の可能性があるのは、5、6年生のいくつかの科目です。

 そうなると低学年からデジタル教科書が必要な子どもは、LDの子ということになるかもしれません。例えば点字教科書や拡大教科書は、通常の教科書の代わりに無償で配布されています。今後、デジタル教科書がこれらの教科書と同じ「教科用特定図書」の扱いになると、学校側が教育委員会にデジタル教科書を申請しなくてはならないはずです。無償供給の手続きが必要になるからです。

−− なんか嫌な予感がします。申請の壁が見えます。

 前年の秋ぐらいに「来年度、この科目のデジタル教科書を何件分欲しい」ということを、学校が教育委員会に申請することになるそうです。するとここに、「どの子がLD?」という問題が横たわってきます。我が家のように、検査結果を提出してもLDについて適切な対応ができなかった学校があることを考えると、「あの子はデジタル教科書がいいんじゃないか」と判断できる力量のある先生がどれだけいるだろうかと考えてしまいます。そういう先生がいたとしても、親に説明できるかどうか。「お子さんはデジタル教科書がいいです」と伝えて、「そうですね」となるとは限りませんから。

−− デジタル教科書になったら、紙の教科書がもらえないとなると、余計に「なんでうちの子が」となってしまうかもしれません。

 そうなんですよ。かなり難しいと思います。ただ、解決策がないわけではないと思います。娘には2つ上に姉がいるのですが、通っていた小学校はICT端末の教室での使用が、すごく進んでいたのです。小学校5年生の姉のクラスでは、もうハッカーみたいな男子がいっぱいいて、配られたGIGA端末をいかに使いこなすかという感じで、教育委員会も頭を抱えていたと聞きました。

 下の学年はそこまでではありませんでしたが、学校全体として自由に使っていいよ、という雰囲気ができていたんですね。それで娘も4年生の4月くらいから、タブレットでノートをとるようになりました。

−− LDに対してはいまいち反応が悪かった学校だけど、端末の使用は自由だったんですね。

 そうなんです。担任先生も「誰でも使っていいよ」と言ってくれたので、「ズルい」とか言われずにすんだのはよかったですね。

−− それはよかった。そういった部分で気を遣いますからね。

 5年生になった頃、タブレットでノートを取り続けた子は、娘を含めて3、4人だけでした。結局、みんな手書きに戻ったんですね。私はそのようなやり方が、理想的だと思っています。

−− LDと診断されなければタブレットでノートはとらせないとか、デジタル教科書は使わせないとなると、診断に至らない子どもの手に届かなくなってしまいますから。

 みんなが勝手にデジタル教科書も使えるようになるといいですよね。LDと診断されていなくても、ちょっと使ってみることができる。読むのが少し苦手とか、日本語に慣れていない海外ルーツの子が、まずは読み上げ機能のあるデジタル教科書を使う中で、だんだんと紙に移行するみたいなやり方がいいと思います。

 入り口は誰でも使えるようにオープンにして、その中で使いたい子だけが使い続ける。そういう世界を夢見てるんですけどね。

−− 私も、デジタル教科書が入ってきたら、LDの子も、ちょっと読むのが苦手な子も、ラクになるかもしれないと単純に考えていました。

 多分今回の報道でそう思った人は、多いと思うんですよ。

−− でも、完全デジタルなんて、ほとんど禁止の勢いですし。

 あと、デジタル教科書に加えて紙の教科書が欲しいとなると、今度は紙の教科書を個人で買わなければならなくなります。すると、手に入れられるのは教科書が学校に行き渡ってからとなるので、4月も後半にずれ込んだりする可能性があるんです。

−− 家でデジタル教科書で勉強をしていても、学校ではみんなと同じ紙の教科書を使いたいという子は、確かに一定数いると思います。

 購入の時期と、LDの子をどう見つけるか。そういったことが懸念点としてあげられます。特にLDの子をみつけてデジタル教科書につなげることは、とても難しいと思います。

●低学年でこそ、デジタル教科書へのアクセスを

−− 最初は「デジタル教科書が正式な教科書になる」というニュースに単純に喜んでいたのですが、「4年生以下と国語・社会・道徳はずっとデジタル教科書禁止」などという話が出てくると、何も変わらないのではないかという気がしてしまいます。

 そうですよね。特に、LDの子どもは、国語と社会はデジタル教科書が欲しいと思っているわけですよ。もちろん使っているうちに、聞くのが面倒になって紙の教科書に移行する子もいるのですが、低学年で使って、基本的な読み書きの理解を助けなければなりません。語彙やその後の学習に必要な用語を、低学年で身につける環境が必要だと思います。

−− 低学年で、ストレスのない環境で基礎的な学力を身につけることができれば、LDの子はその後の学習にもついていけると思うんですよね。

 低学年で「見ながら聞ける」というメリットは大きいと思います。国語と社会、特に4年生以下はそういったハイブリッドやデジタルの教科書に簡単にアクセスできるようにしてほしいです。

−− 低学年で、読み上げ機能がある国語や社会の教科書を、とりあえず誰でも使えるようにしておくのがいいと思います。LDと診断されてから、申請して使えるようになるというのでは、困ったときにすぐに使うことができませんから。宮﨑さんも、LDと認識されて特別支援教育を受けるのに、2年も待たされたというお話でしたよね。(★第1回リンク)

 私ははじめ、英語のデジタル教科書のような運用になると思っていたんです。紙の教科書が配られて、デジタル教科書も使える状態。

−− そうはならないわけですよね。今回の法律では、教育委員会が「紙」「紙とデジタルのハイブリッド」「デジタルのみ」のいずれかを選ぶ形でした。

 そうなってくると、教育委員会がどの教科書を選ぶか、そしてハイブリッドやデジタルを選んだ場合は、ICT 支援員などを入れて子ども達がすぐに使えるような状態にできるかといった、一連のことが教育委員会に委ねられます。結局、教育委員会次第になってしまう。これは教育委員会ガチャ、です。

−− そうなりそうですね。

 さらに、教育委員会が学校現場に丸投げしたら、学校ガチャが発生する。実際、英語のデジタル教科書がそうなんですよ。同じ区の中でも、こちらの学校ではデジタル教科書の音声を活用しているけど、こちらの学校では「見たこともない」とか。

−− 英語のデジタル教科書は、全国に配られているわけですよね?

 5年生から中学校3年生までの教科書が、全国の生徒に配られています。私は、いろいろな自治体をまわっているのですが、子どもの端末にデジタル教科書を設定していない自治体や学校がすごく多いんですよ。

−− デジタル教科書が配られているのに。

 音声付きの教科書があるのに。学校で、設定をしていないんですよね。

−− もったいない。

 もったいないですよね。予算をかけて、子ども達全員に配布しているのですが、子どもに届いていないんです。

−− 知らない親もいると思います。デジタル教科書で、勉強がしやすくなる子はいるはずなのに……

 最終設定を学校任せにする教育委員会が多いので、そこを改善しないと結局使われないんですよね。「学校の授業で使わないから入れても仕方ない」、という先生もいるのですが、使えるようにしておいてくれれば、家で使えますから。

−− この先、ハイブリッド教科書やデジタル教科書が、「使われないQRコードがついた紙の教科書」や「読み上げができない画像データの教科書」にならないか、心配になってきました。

●読み書きの苦手な子は、デジタル教科書にアクセスできるか?

−− 読み書きが苦手ということに、子ども自身は気づきにくいものですが、そういった子がストレスなしにデジタル教科書を使えるようになるには、どうしたら良いのでしょうか。自分が読むことが苦手なことに気づかない子は多いと思います。

 そうですよね。子ども自ら「デジタル教科書を使いたい」って言うわけがないんです。それに全ての保護者が、LDについての感度が高いわけでもない。その上、LDをスクリーニングする機会もない。そんな中、どうやって学校側が、必要な子どもにデジタル教科書を提案できるのか疑問です。たぶんできないと思います。

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