数の概念を遊びながらつくるプレイフルカード
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どうしても頭に入らない知識というものは誰にでもあるものです。それが語学の場合もあれば、数の場合もあります。算数があまり得意でなかった私は、「分数の割り算は、割る数の上下を逆転して掛ければいい」と習い、何も考えずにそのようにして計算をこなしてきましたが、本当にその計算の意味がわかっていたかといえば疑問ですし、正直今でもわかりません。
分数は、小学校で習う算数の中でも、つまずきやすい単元のひとつです。「何がわからないのかわからない」という子どもも、一定数いるはずです。
●認知科学者が考えたカードゲーム
プレイフルカードは、認知科学者である慶應大学名誉教授の今井むつみ先生が発案したカードです。今井先生は『言語の本質』(共著:秋田喜美/中公新書)、『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)など、数々のベストセラーで知られています。今井先生の専門は、認知科学、言語心理学、発達心理学など多岐にわたりますが、子どもがことばをどのように獲得するか、概念をどのように獲得するかを、「赤ちゃんがものをじっと見つめる長さを測る」などユニークな手法を用いた実験を通じて、科学的に明らかにし続けています。
今井先生は長年、子どもたちの学力低下に危機感を持ち、認知科学の知見からその回復の道筋を示しています(*1)。認知科学的に正しい方法を論文や書籍で示すだけでなく、それを具体的な方法に落とし込んでいるところに、私は常々感嘆させられています。
その具体的な方法の一つが、「たつじんテスト」です(*2)。これまでの学力テストでは測れなかった子どもの学ぶための力をはかるこのテストは注目を集め、学校単位だけでなく、自治体単位での採用など広がりを見せています。
そして今回新たなアイテムとして誕生したのが「プレイフルカード」です。同時に発売された『プレイフルラーニング 楽しみながら学ぶ力を伸ばす奇跡のメソッド』を読むと、このカードで遊ぶことが、どのように数の概念の獲得につながるのかがわかります。

「プレイフルカード」と『プレイフルラーニング 楽しみながら学ぶ力を伸ばす奇跡のメソッド』

分数・小数・整数が、イラストやゲージで示されている
●「たつじんテスト」でわかったこと
この「発達障害レポート」では、山本ゆう先生の記事で「算数障害」について詳しくご紹介しています。しかし、算数障害ではなくても、数の概念をつかむことを苦手としている子どもはいます。
実際、今井先生が行った「たつじんテスト」の結果では、数の仕組みがわかっていない子どもが私たちが想像するよりずっと多いということを示しています。例えば、0から1の数直線上に1/2の位置を書く問題では、5年生の正答率は46%という結果が出ています。ちなみに4年生で26.1%、3年生では15.5%だったといいます(*3)。1/2を理解するというのは、こんなにも難しいことなのです。
●「学習性無力感」に陥る前に
また、今井先生は本の中で「学習性無力感」に陥ってしまう子どもがいることを懸念しています。「学習性無力感」というのは、ネガティブな経験を繰り返し、苦しみ続けることで、「自分は何もできない」という心理状態に陥ることです(*4)。算数においても、苦手な単元の問題を繰り返し間違え、それを指摘され続けることで、「自分は算数はできない」と思い込んでしまう子どもがいるかもしれません。
また、「数(分母)が増えると、数が減る」のが分数です。2,3、4、5と数が増えるたびに大きくなっていったのに、同じ「1」という分子で比べれば、1/2、1/3、1/4、1/5と分母が増えるたびにその数が小さくなる。この数の仕組みを理解するには、単に「ピザを半分にしてこれが1/2という一つの例からだけでは絶対にわかりません」と今井先生は述べ、次のように続けています。
分数の「意味」を理解するためには、1/2や1/3という「わかりやすい」分数をピザのようにわかりやすい事例だけで教えるというこれまでのやり方は、よいやり方ではないと、認知科学者の私はずっと感じていました。記号接地を促すには、概念のど真ん中の典型の事例だけではなく、最初から(子どもが理解できる範囲でということはもちろん配慮しつつ)中心から外れた事例も含めて、幅をもって記号接地ができるよう大人が配慮してあげることが大事だと思います。
今井先生は「記号接地」を、「自分の身体を使って経験し、その経験を自らの推論で広げること」と説明しています。ことばや数を記号接地するというのは、その意味が実感としてわかるということです。
記号接地という文脈でいえば、1,2,3といった数は、普段の生活に結びついています。子どもは「おにぎりを2つ食べる」とか、「いちごを5個お皿に分けてもらう」など、普段の生活を通じて、実際のもの(おにぎりやいちご)と結びつけて数を理解していきます。ただの抽象的な記号である、1や2や3といった数は、このような実際のものと結びついて理解されていきます。「いちご1個はいや、5個ちょうだい」などといったように、1と5のどちらが大きいか、多いのかを感情を伴った経験として理解するようになるわけです。この場合、1や5という数は、記号接地されている例といえるでしょう。
●日常生活であまり出合わない分数
一方、幼い頃から分数に接することはあまりありません。ピザやケーキは、分数の理解に使用される図柄ですが、幼い頃であればそれはすでに切られた三角の状態で、お皿に置かれています。「ピザを4分の1ちょうだい」と言うような機会は、そう多くありません。
かといって、分数の概念がまったくないわけではありません。「はんぶんこ」は、ふたりきょうだいであれば日常的に使われている言葉ですし、多くの子どもたちはその意味を理解しています。しかしそれが「1/2」や「0.5」という概念と結びついているかは、また別の問題です。小数との対応も悩みのひとつで、「0.25 = 1/4」だといくら言われても、そういう気がしないのであれば、仕方ありません。暗記してしまう子どもは多いと思います。
このプレイフルカードは、その「結びつき」を、遊びながらつくるためのカードです。たとえば1/2の大きさを示すカードには、次のようなものがありました。

1/2と同じ大きさのカード
ピザやリンゴ、液体の絵をガイドにすれば、まだ分数や小数を習っていなくても、その量をつかむことができます。「1/2」と「0.5」が同じ量を表すこと、2/4や3/6が、1/2と同じということに、気づくきっかけになるでしょう。
また、ピザやリンゴの絵を見て「はんぶんというのは、1/2なんだ」ということがわかる子がいるかもしれません。それは日常の言葉と数が結びつく瞬間です。
遊びながら、数の感覚を身体にインストールしていくのが、このカードです。
●遊ぶことが、子どもの学び
学びというと、私たちはどうしても机に座って、眉にシワを寄せてするものと考えがちです。しかし、子どもの学びは、それだけではないとこの本とカードは教えてくれます。
このプレイフルカードは、数の結びつきが弱いお子さんにとって、その数を身体で感じることができるものです。
基本ルールは、簡単。相手のカードより大きな数を出していき、手持ちのカードがなくなったら勝ちです。トランプの大富豪と似ています。場に出ているカードより大きいカードを出すのが基本ルール。ですから、1/2の上に0.5は出せません。
下記は、基本の大きな数を出すゲームを行った時の写真です。我が家には高校生以上しかメンバーがいなかったので、小数や仮分数を含めたすべてのカードを使い、すぐに終わらないよう、パスの場合は山の中から1枚引くルールとしました。

0.2 → 0.25 → 0.33 → 1/2 と続いた
配られたカードの中の小さい数を場に出すことからスタート。「ちょっとだけ大きい数」をそれぞれが出していきます。0.2 → 0.25 → 0.33 → 1/2 と続きました。カードは「2」が最高値なので、2が出たらカードを流して再度スタートです。
次に行ったのは、神経衰弱。これが結構難しい。トランプと違い、数が同じならOKというルールで行いました。つまり「0.5」「1/2」は、同じカードという扱いです。
これは、大人ならではかもしれませんが、どうしても数で覚えてしまうので、「0.5」「1/2」を「同じ」と認識できず当てられないことが続きました。後から「ピザの絵だけで暗記すればよかった」と後悔。
「25/20は5/4」「8/6は小数でいくつ?」などと、約分をしたり、小数に直したりと言い合いながらゲームは進行。かなり頭を使うので、これは大人の脳トレにもなりそうです。

これは正解
トランプと似たように使えるので、どんどんオリジナルのゲームを考えてみると楽しいと思います。参加者の年齢やレベルに合わせて、使うカードを絞ることで、同じ遊びでも難易度が変わります。
●子どもは数で遊ぶ
先日、階段をじゃんけんで登る遊びをしている男の子3人組を見かけました。グーなら「グリコ」で3段、チョキなら「チョコレート」で6段、パーなら「パイナップル」で6段上がれるというあの遊びです。できればチョキかパーで勝ちたいのは、それぞれグーの倍の6段、階段を上がることができるからです。私はその光景を見ながら、こうした遊びの中で、数が身体に染み込んでいくのだな、と感じたものです。
幼い子にとって、数字は遊び道具です。子どもが幼い頃、電車に乗ると延々と通り過ぎる踏切の数を数えたり、紐の先のボサボサになった部分の糸の数をずっと数えていることがありました。数にハマる時期があるのか、数え上げること自体に喜びを感じているようでした。そんなふうにして子どもは遊びの中で、自然に数に馴染み、数を記号接地していくのだと思います。
繰り返し遊ぶことで、数の概念が身体に馴染み、数と実際の経験を結びつけていく。このプレイフルカードで、そんな学びの楽しさが感じられるかもしれません。大人も頭を使うことになるので、お子さんと遊んでいても飽きないと思います。
学校で取り入れるなど、子どもの得意不得意に差がある場合は、「のびのびプレイチーム(苦手な子で編成)」のようにチーム分けをすると、どの子も楽しく遊べるといいます。また、「カード配り係」など役割を持たせることで、参加しやすくなる子もいるそうです。ゲーム方法やメンバー構成の工夫で、楽しみ方、遊び方はぐんと広がります。ぜひ、いろいろ工夫して、遊びと学びを広げてください。
*1)詳しくは『学力喪失』今井むつみ(岩波新書)
*2)詳しくは『算数文章題が解けない子どもたち──ことば・思考の力と学力不振』今井 むつみ 他(岩波書店)
*3、4)『プレイフルラーニング 楽しみながら学ぶ力を伸ばす奇跡のメソッド』今井むつみ(小学館)
●著者プロフィール
今井むつみ (いまいむつみ)
認知心理学者。慶應義塾大学名誉教授。2025年1月より文部科学省中央教育審議会専門委員。日本認知科学会フェロー。アジア初の Cognitive Science Society Fellow。専門分野は、認知科学、特に認知言語発達科学、言語心理学。
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