そもそもの話 第4回 子どもと発達障害

冬休み目前。子育て中の親御さんは、「冬休みの方が忙しい」という方も多いかもしれません。今回は、子どもと発達障害、そして遺伝について書いていきます。
黒坂真由子 2025.12.26
誰でも

「そもそもの話」は、私が担当した『発達障害大全 「脳の個性」について知りたいことすべて』(日経BP社)をベースに、話をしていきます。より深く知りたいという方は、本を手にとってくださると嬉しいです。

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●当たり前のことを、最初に

 子どもが発達障害とわかると、親としていろいろ思うことが出てくると思います。そして周りからあれこれと言われることもあるかもしれません。

 まず最初にお伝えしたいことは、発達障害は親の育て方のせいでなるものではないということです。「そんなことわかってる」と思われる方もいるはずですが、心ないことばを投げかけたり、ほのめかしたりする人に苦しんでいる人がいるのも事実。また母親の中には、自分の子育てが間違っていたのではないかと悩んでしまう人もいます。

 ですから、当たり前のこととはいえ最初にお伝えしておきます。

 お子さんの発達障害は、育て方のせいではありません。

 とはいえ私自身、子どもが発達障害だと分かった時には、あれこれと考えてしまいました。

「もしかすると、ゆらゆらと揺らしすぎた?」

「あの時、階段から落ちて頭を打ったから?」

 こんなことが頭に浮かんできてしまったのです。このような思いは、インタビューをした慶應大学名誉教授で小児科医の高橋孝雄氏がきっぱり否定してくれました。ここで言う「母性」は女性だけに限らないとした上で、次のように説明をしてくれました。

もちろん発達障害の原因も頭部打撲ではない。でも、自分のせいだと感じるでしょ。そこが母性の素晴らしいところだと思うんですけど、逆に母性の非常に切ない部分でもあるんです。母性がすごいのは、一言でいえば「最終責任を負う」という意気込みです。いいことは「よかったね!」と子どもをほめる。でも悪いことは「自分のせいだ」と……。でも、まずその肩の荷を下ろさないといけない。なぜなら、発達障害とわかったなら、これからは、より客観的にお子さんの「できること」と「できないこと」を見極めていかなければならないからです。
『発達障害大全 「脳の個性」について知りたいことすべて』


●もっと早く気づけばよかったという後悔

 また、「もっと早く気づいてあげればよかった」という後悔の言葉もよく耳にします。

 しかし、子どもの発達障害に気づくことは、それほど簡単なことではありません。1人目の子育てであれば、他の子との違いに気づくことは難しいでしょう。私の場合、3人目の子育てであったにもかかわらず、「男の子だし、お姉ちゃんたちと違うのは当たり前」などと思っていました。あとから考えれば、なかなか言葉を発しないとか、文字に興味がないなど、後の「限局性学習症(学習障害)」に関連しそうな様子はあったのですが、その事実から目を背けていたこともあったと思います。

 また、今から10年遡っただけでも、発達障害という言葉を知っている人は少なかったはずです。 2017〜2018年頃の小学校でさえ、知っている先生は少数だと感じました。現在20代、30代以上のお子さんをもつ親御さんが子育てをしていた時代は、情報もサポートも限られていたか、もしくはまったくなかったはずです。「気づく」ということ自体が難しかったのです。

 そのような中、苦労して子育てをしてきたご自身を責めたり、子育てを後悔したりすることはないのです。

●遺伝との関係

 遺伝との関係も気になることの一つです。

 私がこの本のインタビューをスタートするにあたり最初にあげた「知りたいことリスト」の中にも、「遺伝」の項目は入っていました。子どもの発達障害についてインタビューをした高橋氏に、遺伝の話をお聞きしたのもそのためです。

 顔や身長、性質にも遺伝の要素があるように、発達障害にも遺伝の要素があります。研究では遺伝的要因の関与が一定程度示唆され、研究によってもばらつきがあります。本書のインタビュー時、高橋氏は「何万人という患者さんのデータを統計学的に処理してみると、遺伝的素因の強さは50%を超えてくる」としていました。これはそれぞれの家族や個人に対して、そのまま当てはまる数値ではありませんが、集団データとしてはこのような傾向が示されています。

 ただ、親がASDだと子どももASDであるといった単純な話ではありません。遺伝率は高くても、どのように遺伝するかはまだわかっていないのです。遺伝について、高橋氏は次のように述べています。

遺伝的素因といっても、「単一遺伝子」ではなく、複数の遺伝子が関与する「多因子遺伝」によるものですから。例えば身長がそうです。子どもの身長は両親の身長からある程度、推測可能ですが、それでも「±8〜9cm」の振れ幅があります。もし身長が単一遺伝子、つまり1個の遺伝子で決まるものだとしたら、日本人の身長は全員一緒かせいぜい数パターンしかない、まるで血液型のような話になってしまいます。そうならないのは、身長が多因子遺伝によって決まるからなんです。
発達障害でも、おそらく多くの遺伝子の組み合わせによって素因が左右され、そこに環境要因も影響しながら特性が決まっていきます。ですから、両親にはそんな傾向は全然ないけれど、子どもはADHD、ASDという場合もあるわけです。ただ、何万人という患者さんのデータを統計学的に処理してみると、遺伝的素因の強さは50%を超えてくる、ということです。
『発達障害大全 「脳の個性」について知りたいことすべて』

 「多因子遺伝」というのは、複数の遺伝子と環境因子の相互作用によって生じる遺伝のことです。つまり何か一つの遺伝子によって発達障害が生じているのではなく、関係する遺伝子は多数あるということなのです。


●大人の発達障害との違い

 小児科医の高橋氏は、子どもの発達障害を「発達が進むに従って、次第に明らかになっていく日常生活の困難さ」と定義しています。これは一つには「脳の発達の過程で明らかになってくる」ということ。もう一つは「生活の場が広がることで、明らかになってくる」ということです。

 幼稚園・保育園、小学校と生活の場が広がるに従って、子どもは社会的な生活を送るようになります。その中で、これまで問題にならなかった「個性」が気になりだす、困りごとが増えていく。それが発達障害ということになります。

 ですから、たとえ強い個性を持っていたとしても、本人が困難を感じなければ、発達障害と診断されることはありません。これは大人も子どもも変わらない部分です。発達障害のチェックリストのようなものにいくら当てはまったとしても、本人(もしくはご家族)が困っていなければ、診断に至ることはありません。高橋氏は、保育園の先生に発達障害かもしれないと言われたとしても、親御さんも本人も困っていないのなら、「わざわざ病名をつける必要もない」といいます。

●早期診断は有効か?

 子どもの発達障害の場合、親は「診断を受けるか」で悩み、先生は「伝えるべきか」を考え、医師も「診断をするか」で迷います。特に幼い頃の診断には、プラス面とマイナス面があります。

 プラス面は、親が早く子どもの得意や苦手に気がつけば、それに沿った育て方ができることです。例えば、発達障害に含まれる「発達性協調運動症(DCD)」だとわかれば、運動の無理強いはしないほうがいい、ということがわかります。

 一方で、診断を親が受け止められない場合があります。親が必要以上に落ち込んでしまったり、逆に「なんとかしなければ」と張り切りすぎて過度な教育に走るということもあります。これはマイナス面です。

 先の高橋氏は、「手遅れになる仮説」に陥らないように、といいます。「子ども自身が困難を感じ始めたタイミング」で気づけばいいとし、「早期診断、早期心配」にならないようにと親に注意を促します。

 信州大学医学部教授で精神科医の本田秀夫氏は「早期発見、早期ブレーキ」が大事だといいます。これは、発達障害を早期に見つけることで、「この子はのんびり育つ子だ」と納得し、その子のペースにあわせて育てることにつなげるためです。過度な教育にブレーキを踏み、ゆっくり育てようということです。

 いずれの先生においても、診断によって親が心配しすぎたり、焦ることで過剰な訓練や教育を招かないように、とアドバイスしていることになります。診断を受けることで、ほっとするのか、焦ってしまうのか。早期診断がプラスとなるか、マイナスとなるかは人によって変わります。

●療育とは?

 療育というのは、遊びや生活の中で、言語、運動、社会性、感情調整などの力を育む支援のことです。児童発達支援センターや医療機関などで実施されています。民間の教室もあります。質も値段もさまざまです。専門家も「選ぶのが難しい」としています。

 本田氏によるとポイントは、「親が療育を受けている子どもの様子をみられるか」だといいます。その子に合った接し方や学び方を親が知り、家庭で実践するためです。

 親が先生に気軽に相談できる場なら、なおいいと思います。親子ともに負担にならず、楽しんで続けられることが大切です。

 高橋氏は、「療育を受けても子どもが劇的に変わることはない」とし、一定レベルを維持しているのであればそれは進歩していることだ、としています。子どもは成長し、活動範囲は広がっていきます。それに伴い新たな困難にも出合います。にもかかわらず、子どもの状態が変わらないとしたら、それは進歩だからです。

 親としては「療育に通っているのだから、みんなに追いついてほしい」と思ってしまいます。そのような焦りにとらわれないように注意が必要です。

 私が発達障害についてのインタビューを始めたのは、なぜか文字が書けない息子がもつ発達障害について知りたいと思ったからです。『発達障害大全 「脳の個性」について知りたいことすべて』において、子どもの発達障害や学校について詳しく書いているのはそのためです。

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