告知に関する悩み事

 11月29日にオンラインで行われた「告知」に関するセミナーのレポートをお届けします。当日私はインタビュアーとして参加し、当事者の母としての経験を野中美保さんにお聞きしました。その後の講演では、専門家としての知見を北川庄治先生がお話しくださいました。
黒坂真由子 2025.12.12
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左から北川庄治先生、黒坂真由子、野中美保さん

左から北川庄治先生、黒坂真由子、野中美保さん

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●当事者の経験

 今回のオンラインセミナーのタイトルは、『ADHD、ASD、学習障害がある息子 「母親の育て方が悪い」と言われて 〜当事者が語る告知にかかわる悩みごと〜』。現在24歳の息子さんの母親である野中美保さんは、発達障害に関する理解が広まっていない中での子育てで、孤軍奮闘してきた経験をお持ちです。

 野中さんと初めてお会いしたのは、7、8年前。息子の学習障害がわかったばかりで、右往左往していた頃のことです。同じような悩みを持つ野中さんの話に、励まされたり、驚かされたりして以来、悩みを言い合える関係が続いています。

 子どもへの診断名の告知は、親が持つ悩みごとのひとつです。私も最初に専門家に相談したことの一つが、「本人に伝えるべきか」でした。今回のセミナーで、お互いの経験を出し合ったのですが、その中で共通していたことがいくつかありました。野中さんにスライドのまとめ部分を共有していただきました。

野中美保さん提供 (C)デコボコベース株式会社

野中美保さん提供 (C)デコボコベース株式会社

 野中さんが告知をしたのは、息子さんが5年生の11月、11歳の時です。学校で「ガラスの扉を飛び蹴りした。鉛筆を投げて踏みつけた」という事件が起こったことがきっかけです。体が大きくなり、「本人の自覚が必要」だと感じたといいます。また、「ガイジ(障害児)」と揶揄されている場面を見たことも理由のひとつです。当時のテレビ番組の影響で、息子さんをそのようにからかう子がいたのです。そのまま放っておくことができない時期にきていたといいます。

 一方で息子さんは、「科学の実験教室」という学校の外の居場所を見つけ、自分の得意なことも分かり始めていました。また、野中さんと担任の先生の関係も良好で、相談できる間柄でした。このように親子ともに最悪の時期ではなかったことも、診断名を告げるという決心を後押ししました。

 場所は、妹さんの習い事を待つ間45分を使って、息子さんのお気に入りのスタバで行ったそうです。話を受けて息子さんは「科学の発見と同じような様子」だったといいます。

●きょうだいと一緒に話す

 私が学習障害について伝えたのは、息子の気持ちの落ち込みが見られたことがきっかけでした。書くのが苦手な息子は、小学校2年生で書く量や、覚えなければならない漢字が増えたことで、塞ぎ込むことがありました。「僕はバカなんだ」と言ったり、「◯◯君は頭が良くていいな」と言ったり。

 小学校2年生と時期が早かったのは、上に2人の姉がいたためです。きょうだい喧嘩中の何気ない「ばーかばーか」という言葉を防ぎたかったからです。告知が早くなったのは、このようなきょうだい構成も理由のひとつです。

 3人を集め、息子の読み書きが苦手なのは「学習障害」のためだと伝えると、上の娘はあっけらかんと「私も音痴だしね」と。下の娘は「だったら私は運痴かな?」。「まあ、なんかあるよね。あはは」と、笑って終わりました。当時ひどく悩んでいた私は、なんだか肩透かしを食らったような感じでした。この時のことを覚えているかを息子に聞いたところ、全く覚えていないそうで、「(学習障害のことは)気づいたら、知っていた」ということでした。

 もし、本人がご機嫌で過ごしているのであれば、そんなに告知を急ぐことはないのかな、というのが野中さんとの話の中で出たことです。ただ、例えば受験で合理的配慮を受けるためには、すでに同じ配慮を受けている「実績」がベースとなります。その場合、本人が前もって自分の苦手を知り、配慮を受けておくことが必要になるかもしれません。

 また、成長につれて自分で苦手を説明したり、そのための配慮を求めたりする機会が増えていきます。説明するためには、自分のことを知っておかねばなりません。

 そのように考えると、告知というのは「宣告」ではなく、「誰もが受験や就職活動でいずれ行う『自己分析』のひとつ」になっているのかもしれない。野中さんからはそんな言葉もありました。

●専門家の視点から、告知を考える

 告知について配慮すべきポイントについて、デコボコベースの最高品質責任者CQOである北川庄治先生の講演から、強く印象に残った言葉をご紹介します。

 ひとつは「ステルス告知」なる言葉。これは診断名を告げるときには、「そんなの知ってたよ」となるように、日々伝えるという方法です。「△△は苦手だけど、◯◯は得意だよね」という感じで日々接していくのですね。「告知」というと、なんだか大きな出来事のように思えてしまうものですが、「告知」というのは日常の延長なんだと考えることができました。

 また「告知は、基本失敗する」という北川先生のスタンスも、共有したい内容です。これは「告知というのは、とても難しいことだ」ということの裏返し。告知がうまくいくためには、親も子も共に「すでに障害を受容している」ことが前提になるといいます。

 確かに親が悲壮感を漂わせて診断名を伝えたとしたら、子どもは「自分はそんなに大変な障害を抱えているんだ」とショックを受けるかもしれません。私自身は、かなりの悲壮感を持っていたと思うので、もしかすると、あっけらかんと笑ってくれた娘たちに助けられたのかもしれません。

 野中美保さんへのインタビューは、すでに「アーカイブ」でも行っており、サポートメンバー限定記事としてアップされています。今回のセミナーを受けて、期間限定で無料公開しています。「当事者家族インタビュー 小学校5年生で、息子への告知」は、会話形式で残されていた当時の告知の記録です。ぜひご一読ください。

野中美保(のなか みほ)

デコボコベース株式会社。発達の長男を含む3児の母。困りごとは気軽に話して支援者を増やすがモットー。誰もが生きやすい社会を願い、NHK記者による『母親になって後悔してる、と言えたなら』(新潮社)に取材協力。

北川庄治(きたがわ しょうじ)

デコボコべース株式会社 最高品質責任者CQO。発達障害専門 公認心理師。東京大学文学部卒、東京大学大学院教育学研究科、通信制高校の教員、発達障害児専門の塾講師を経て2015年デコボコベース入社。著書に『発達障害の療育がうまくいくー子どもの見方・考え方ー』(ぶどう社)がある。

当日の動画のアーカイブが公開されています。気になる方は、リンク先をご覧ください。(外部へのリンクとなります)

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